大航海時代の歴史が染込んだアフリカン・チキン


各店が看板メニューに掲げる一品。店ごとに趣向を凝らしている

各店が看板メニューに掲げる一品。店ごとに趣向を凝らしている

さまざまなスパイスにココナッツミルクを加えて作るマカオの名物料理、アフリカン・チキン。しかし、ひとえにアフリカン・チキンといっても、レストランごとに工夫を凝らしたスパイスや調理方法によって、その味は千変万化。基本となる香辛料のピリッとした刺激とソースの甘みは大航海時代のロマンの味。そんな、マカオを代表するソウルフードをいざ食べ比べ!

s24_p4_02はじまりは15世紀の大航海時代。ポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰を経て、アフリカのモザンビークにたどり着いた先で食べた、辛い鶏のグリルがアフリカン・チキンの原型といわれる。16世紀、ポルトガルはインドのゴアに拠点を築くと、船乗りたちは、そのアフリカ仕込みの鶏料理にさまざまなスパイスを付け加えた。さらにポルトガルはマラッカ王国(1402〜1511年)を征服。そこでは、鶏料理に特産のココナッツが加えられた。やがてポルトガルは明王朝からマカオの居留権を獲得。ここで中国の調理技術と華南、広東料理と結びつき、アレンジされ、今に伝わっている。

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カフェ・ベラ・ヴィスタ(地図 A
ココナッツミルクのマイルドな甘みの後にスパイスやチリの辛さが追いかけてくる。ココナッツの実の食感が楽しめるのもユニーク
ソルマー(地図 B
10時間漬け込んだ鶏肉と、20種以上のスパイスを調合したソースを一緒にオーブンへ。ソースが煮詰まるまで焼くのが特徴
リトラル(地図 C
炭火で焼いた鶏肉に、タレをつけては焼く。それを何度も繰り返して作る。ピリ辛なソースとチャツネのようなフルーティーな甘みのハーモニー
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ヘンリーズ・ギャレー・マキシム(地図 D
ソースはガーリックやたまねぎの風味が効いている。チリの辛さとココナッツの甘み、ピーナッツとガーリックの香りが相まって後を引く
ダンボ(地図 E
ガーリック、カレー、胡椒、唐辛子等を合わせたスパイスソースに一晩漬け込んでから焼き上げる。ソースはないが、しっかりと鶏肉に味が染み込んでいる
IFT エデュケーショナル・レストラン(地図 F
白ワインとココナッツミルク、牛乳が入ったマイルドなソースと、それをつけて食べる自家製パンもおすすめ

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◆ 手間ひまかけて作られる大航海の味

大航海時代を描いたアズレージョ

大航海時代を描いたアズレージョ

春の日差しがコロニアルスタイルの店内を優しく包み込む、カフェ・ベラ・ヴィスタ。白を基調にしたインテリア、高い天井とシーリングファンが異国情緒を醸す。窓際のバルコニー席をリクエストし、お薦めを聞くと、メニューに書かれた「非洲辣雞」を指差した。
それは何かと尋ねたところ、「はい、非洲とは中国語でアフリカ大陸を意味し、辣雞とは辛い鶏肉を意味します。代表的なマカオ料理のひとつ、アフリカン・チキンですよ。」とのこと。
さっそく、そのアフリカン・チキンを注文すると、「調理に30分ほどお時間を要しますがよろしいでしょうか。」と。
30分とはずいぶんと時間がかかる。調理器具でも壊れたのかと冗談混じりに聞くと「いいえ、チキンに味を馴染ませるよう数回に渡ってソースを塗りながらグリルするので、とても時間がかかります。でもきっと気に入りますよ。特製のソースはココナッツの実を使用することによって香辛料の辛さの中に、ほどよい甘みをプラスしています。」と答えてくれた。
テーブルに運ばれてきたアフリカン・チキンは、確かに、鶏のうまみを引き出す複雑なスパイシーさが後を引き、口の中にはココナッツの甘みが広がる。これぞ大航海時代に、ここマカオで花開いた味なのである。

◆ アフリカン・チキンの変貌期

ソルマーのシェフ楊さん

ソルマーのシェフ楊さん

セナド広場からほど近い、1961年創業の老舖マカオ料理店、ソルマー。創業当時から勤める楊ヨウシェフが厨房を切り盛りする。当然、お薦めはマカオ料理。特にアフリカン・チキンには強い思い入れがあるという。
現在、マカオの多くのレストランで提供されるソースたっぷりのアフリカン・チキンを最初に考案したのが、楊シェフである。ソースは、数十種類の香辛料を長年の経験で配合して作る。季節や天候によって、使用する香辛料の分量を調整する職人技だ。
また、こっそり教えてくれたのが、隠し味にトマトケチャップを使っているということ。その自慢のソースは、鶏肉が見えないほどたっぷりとかかっている。
もともとアフリカン・チキンは、香辛料で下味をつけた鶏肉をグリルする料理だったと楊シェフは話す。その言葉に、先日タイパ・ビレッジにある人気のマカオ料理店ダンボで食べたアフリカン・チキンが脳裏に浮かんだ。見た目はシンプルなグリルチキンだが、辛みの中に、フレッシュな鶏肉独特のみずみずしさがストレートに伝わるものだった。これがオリジナルに近いということなのだろう。
媽閣廟から歩いてすぐのところにあるリトラルもまた、老舗のマカオ料理店のひとつに数えられる。リトラルはチキンにソースをかけて仕上げる。ソースにはタマネギなどの野菜の食感を残し、スパイシーな中に野菜の甘みを隠し味にしている。
一方で、現代風にアレンジしたアフリカン・チキンを提供するレストランも注目されている。モンハの丘の頂に位置するIFTエデュケーショナル・レストラン(旅遊学院教学餐廳)は、マカオ公営の観光業専門大学の訓練施設を兼ねたレストランだ。多くの学生が一流シェフのもと、スタッフとして真剣、丁寧な仕事をしている。そしてミシュランガイドがビブグルマンに認めた味は、折り紙付きだ。その中でもアフリカン・チキンは、北アフリカから中東が起源とされる主食クスクスの上に、香ばしく焼き上げたチキンを乗せて少量のソースでアクセントをつける。レモンの皮を隠し味に、爽やかさを演出した上品なソースだ。どこよりも洗練された皿の上のプレゼンテーションからも、目に美味しさが伝わってくる。シェフによってさまざまに変貌を遂げるアフリカン・チキン。しかし、根底にあるのは、マカオに刻まれた長い歴史なのだ。

◆ 世界でたったひとつの味

ペンニャ教会の麓の西灣湖沿いにあるヘンリーズ・ギャレーは、船をイメージしたアンティーク風の内装が、航海の安全を守るペンニャ教会と重なる粋なお店だ。フロアを仕切るマネージャーの黄オウさんがお薦めする料理は、やはりアフリカン・チキンだった。
チリをベースに厳選した香辛料を使用し、鶏肉に味を染み込ませるようにしっかりマリネする。隠し味に使うピーナッツがソースに深みを出しているとのこと。
「アフリカン・チキンは、店ごとに調理の方法も違えば味つけも違います。同じ味は地球上には存在しないでしょう。それだけ独特な料理なのです。それに新鮮な鶏肉が手に入らなければ、作れません。冷凍肉かどうかは、食べればすぐにわかります。フレッシュな鶏肉があってこその料理なのです。」と、黄さんが話してくれた。


● みんな大好きカレー味

上:屋台の近くでは、家族、カップル、友人同士がおでんをほおばっている 左下:カレーおでんの店に並ぶ具材は豊富 右下:パイ生地風のカレーパンは朝食やおやつに

上:屋台の近くでは、家族、カップル、友人同士がおでんをほおばっている
左下:カレーおでんの店に並ぶ具材は豊富
右下:パイ生地風のカレーパンは朝食やおやつに

マカオのカレー文化は日本に劣らず独特。一般的なカレーはもちろんのこと、カレーラーメン、カレー風味バーガー、カレーおでんなどなど、幅広い。ふと入った大衆食堂の朝食メニューにもカレーラーメンがあった。カレーは通常、カレー粉を使用してガーリック、ショウガをたくさん入れるのが特徴のようだ。
なぜマカオでカレーが国民食となったのか。そのルーツを探るべく、料理人をはじめ、屋台のおじさん、地元の人々に尋ねてみたが、明確な答えは返ってこなかった。
そもそもカレーはインド発祥の料理。それが、スリランカや中国といった近隣諸国、さらにはマレーシア、タイ、インドネシアなどの東南アジア諸国、さらに植民地時代の宗主国イギリスへと伝播し、行く先々でそれぞれの国独自のカレーへと姿を変えていった。他方で、マカオと日本の間には、16世紀以来450年以上の長きに渡る交流の歴史がある。程度の差こそあれ、ともにポルトガルの影響を受けている。ポルトガル語を語源とする日本語に「パン」「カステラ」「天ぷら」など、食べ物に関するものが多くあり、日本の食文化がポルトガルから受けた影響の大きさもうかがえる。ゆえに、マカオ人と日本人の味覚が似ていても不思議ではないのだ。街中で遭遇するカレーは、マカオと日本を繋ぐ両国友好の架け橋なのかもしれない。
そんなマカオのカレーをもっとも手軽に食べられるのが「咖哩魚蛋(カーレイユーターン)」=カレーおでん。セナド広場と大堂の間にある通り、大堂巷沿いに、小さなおでん屋が並び、どこも行列ができている。店の前では老若男女がおでんを頰張っている。店頭には串に刺さった練り物や魚介類、青物野菜などの具材が並び、備え付けのボウルに好きな具材を入れて店員に渡す。おでんにかけるソースは数種類あり、辛さが選べる。一串3パタカからと値段も手頃。予想以上の美味しさに、行列ができるのもうなずける。