❶聖ポール天主堂跡 → ❷モンテの砦 → ❸聖アントニオ教会 → ❹カモンエス広場 → ❺マーガレット・カフェ・イ・ナタ
薄明かりの広場にぼんやり浮かびあがるファサード
「チュン、チュン、チュン……」シーンと静まり返った早朝のマカオ。聞こえてくるのは、小鳥のさえずりだけ。それ以外何も聞こえない。と、静寂を破って、タッ、タッ、タッと小走りに脇を駆け抜けていく足音が聞こえてきた。
「早晨(ジョウサン:おはよう)!」ジャージ姿のランナーたちの元気な声がこだまする。どうやらここで待ち合わせをして、ジョギングを始めるようだ。彼らが姿を消すや再び、ピーンと張りつめた静けさが、あたり一帯を包み込んでいく。
ここはマカオきっての観光地、聖ポール天主堂跡のファサード前の階段上である。時刻は朝の6時。ようやく、ファサードが薄明かりの中にぼんやり浮かびあがり始めた頃だ。大階段脇に連なる街灯もまだおぼろげに灯り続けているから、目に映る光景も実に幻想的である。
それにしても、この静けさはどうだろう。ランナーたちがいなくなった後、大階段周辺には、もう人っ子一人見当たらない。階段を行き来することさえ一苦労するほどの、あの日中の混雑ぶりとはうって変わって、信じられないほどの静けさなのである。まさに、世界遺産一人占め! 階段最上部に腰を下ろして、しばしこの静寂の中の聖ポール天主堂跡を楽しむことにした。
空がほんのり明るくなり始めて、ようやく大三巴街の方から、行き交う人の声が聞こえてきた。冬ともなれば、マカオの気温は10度を下回ることもある。早朝なら吐く息もほんのり白く、みんな背を丸めながら小声で言葉をかわし合うのだ。早朝の張りつめた空気の中では、そんな小さな声でさえ階段上まで響いてくる。暮らしの中のなにげないやり取りを見聞きしているだけで、不思議と幸せな気分になってくるのはなぜなのだろうか。聖ポール天主堂跡へ行くなら「朝がいい!」と、実感した瞬間である。
広場で太極拳や剣舞を楽しむマカオ市民
聖ポール天主堂跡の東側に生い茂る森の中から、心なしか木漏れ日がさすようになってきたところで、あわてて立ち上がった。早朝7時に、モンテの砦へのゲートが開くからだ。1622年にオランダ軍が攻め込んできた時、この砦に設置した大砲から撃った砲弾がオランダ軍の弾薬庫に命中し、見事撃退したことで知られた砦である。そんな逸話が残された歴史遺産でありながらも、地元の人々にとっては絶好の憩いの場である。
通常、マカオ博物館へ通じるエスカレーターを使用するが、早朝は動いてない。脇に設けられた小路をたどって砦上の大砲のある広場へと出るや、すでに大勢の人たちで賑わっている。静かに太極拳に興じる一団があるかと思えば、音楽にあわせて剣舞を舞うグループ、真っ赤な扇子片手に優雅に舞い踊る一行、さらにランナーたちもいる。いずれも、汗をかいた後の笑顔がとても爽やかだ。
彼らにとっての人気エリアは、城壁前に置かれた大砲の側。ここからなら、聖ポール天主堂跡のファサードをはじめ、市内が一望できるからである。こちらも負けじと、街並みを眺めながら日本が世界に誇るラジオ体操を披露して、ひと汗かいた。
鳴き声自慢の愛鳥家たちが鳥かごを手に集う
次はいったん、聖ポール天主堂跡へと戻り、その北西200mほどのところにある聖アントニオ教会へと向かった。世界遺産に登録されている教会の中で、早朝7時30分から入れるのはこの教会と、セナド広場よりも南にある聖ローレンス教会など数カ所だけなのである。聖アントニオ教会はマカオ初の礼拝堂があったところで、縁結びの神様として知られる聖アントニオを祀っている。結婚に憧れる女性たちに人気の高い教会でもあり、時には結婚式に遭遇できることもある。
訪れた日が日曜日なら、ミサへと向かう信者たちに出会うことになる。その中にはフィリピンから働きにやってきた女性が多いのも特徴的で、経済成長著しいマカオならではの一面を見る思いである。
聖アントニオ教会すぐ北に広がるカモンエス広場も、早朝のうちに立ち寄っておきたいところだ。地元の愛鳥家たちが数多く集う公園で、皆一様に、鳴き声自慢の鳥をかごに入れて、早朝の散策へと繰り出してくるのだ。
ユニークなのは、園内の大木の枝から長い紐がいくつも下がっていること。これは鳥かごをつり下げるためのもので、その木の下に愛鳥家たちが集まって、愛鳥の鳴き声を自慢し合うのだ。
早朝のマカオ散策を終えたところで、お待ちかねの朝食をとりたい。セナド広場から徒歩5分、エッグタルトの名店「マーガレット・カフェ・イ・ナタ」なら朝8時30分から営業している。この店は人気のタルトだけでなく、サンドイッチもおいしいので、ぜひともマカオならではの朝食を味わってみたい。