東洋と西洋が融け合う マカオの香り


Aromas of Macao Span East-West Flavors.

マカオっ子が愛する茶の香り

おみやげ人気も高い中国茶。もっと買えばよかったと後悔する人も多いとか。

おみやげ人気も高い中国茶。もっと買えばよかったと後悔する人も多いとか。

18世紀後半、中国からヨーロッパへの貿易の中心だったお茶。実は、お茶が初めてヨーロッパに紹介されたのは1610年のこと。オランダ船がマカオから運んだ中国茶が始まりだ。17世紀のマカオは、中国産の茶葉をヨーロッパに輸出する拠点だったという。中国で庶民がお茶を飲み始めたのは明代(1368〜1644年)だ。上流階級に限られていた喫茶の習慣が広がり、ジャスミンなど花の香りがする「花茶」も、そのころ登場した。清の時代(1644〜1912年)になると、茶文化は最盛期を迎える。「青茶(烏龍茶)」が開発され、「花茶」とともに、中国茶は香りを楽しむ飲み物として、中国の人たちにさらに愛されるようになった。

p4-2もちろん、マカオっ子もお茶の香りを大切にする。とはいえ、日常のお茶では作法は気にしない。セナド広場の近くで飲茶を楽しんでいたおばさんは、「中国茶を入れるのに、ルールはありません。よく沸騰させたお湯を使うだけ。これを一気に急須に注ぐとね、、お茶の香りや花の香りがよく出るのよ」と教えてくれた。

実は、「飲茶」は、お茶を味わうこと。点心は、お茶をよりおいしくするためのいわば”お茶うけ“だ。

「みんなでテーブルを囲んで、お茶を飲みながらおしゃべりして過ごす時間は何よりも楽しい」とおばさん。マカオの人々の笑顔のそばではお茶が香る。

老舗茶舗とライチの香り

マカオで飲まれるお茶は種類も豊富。華やかな香りのお茶から、濃厚で黒っぽい色をした普洱茶まで。何を飲もうか考えるのも楽しい。

マカオで飲まれるお茶は種類も豊富。華やかな香りのお茶から、濃厚で黒っぽい色をした普洱茶まで。何を飲もうか考えるのも楽しい。

マカオの街を歩くと、銀色の茶缶がずらりと並ぶ茶舗に出会う。店内に足を踏み入れると中国茶のほのかな香りがする。マカオで最も古い茶舗、十月初五日街の「英記茶莊」もその1つ。1930年代の創業で、今も、当時と変わらない売り方を続けている。店内には地元のお客さんたちが次々とやってくる。常連さんらしく、あうんの呼吸でお茶が袋に詰められる。「いつもの!」といった感じだ。

爽やかで香り高い緑茶「龍井(ロンジン)茶」、花のような香りがする白茶「白牡丹」、独特の芳醇な香りの「普洱(プーアル)茶」…。さまざまなお茶が並ぶ中でも人気を集めているのが、最近、日本でもファンが増えている「茘枝(ライチ)紅茶」だ。というのも、「英記茶莊」は、知る人ぞ知る「ライチ紅茶」発祥の地。1940年、同店の職人さんが、「ライチ紅茶」を考案して販売したところ、一躍人気を集めたという。

熱々のお湯で入れると、楊貴妃が愛したという香りが広がる。同店では、ほかにも、バラやジャスミン、菊花など花のお茶も販売している。

「英記茶莊」の歴史資料や道具類、古い写真は、マカオ半島北部のロウリムイオック庭園を入ったところにある「澳門茶文化館」で展示している。小さいながら、マカオのお茶の歴史や文化に触れられる。同じく十月初五日街にある「華聯(ワーリュン)」も、地元で有名な老舗。中国茶葉をマカオ中に卸す茶問屋も兼ねており、店頭にずらりと並ぶ茶缶は壮観だ。お茶の香りに誘われて、どこか懐かしさを感じる街を歩くのも楽しい。

「涼茶」は、マカオっ子の健康の源。比較的味がまろやかなペットボトル入りの「涼茶」もあるので、ぜひ試してみたい。

「涼茶」は、マカオっ子の健康の源。比較的味がまろやかなペットボトル入りの「涼茶」もあるので、ぜひ試してみたい。

漢方ドリンク「涼茶」は美と元気の源

庶民の活気であふれる街を歩いていると、どこからともなく漢方薬の匂いがしてくる。「涼茶(リャンチャ)」の匂いだ。

「涼茶」の店は、マカオの街角のいたるところにある。多くのマカオっ子は、その場でぐいっと飲んで歩き去る。日本でいえば、「ジューススタンド」のような感覚だ。「涼茶」は数種類の漢方をブレンドして作られたお茶だという。漢方薬局でも売っている。

仙草、甘草、羅漢果、菊、冬虫夏草などが材料で、マカオでは、「涼茶」はごく普通に飲まれている。季節によって茶葉が変わり、人々は、食べ過ぎやイライラ、疲労回復、便秘など、自分の体の不調に合わせて選ぶ。苦みとなんとも言えない香りは”ザ・漢方薬“。その分、体には良さそう。「苦みが効き目」と思えば、なんだか頼もしくなる。体調管理も兼ねて、試してみては?

スイーツの甘い香りはポルトガルの記憶

マカオの「エッグタルト」は懐かしくてやさしい味。意外と大きいけれど、甘さ控えめなので、スイーツ好きなら何個でも食べられそう

マカオの「エッグタルト」は懐かしくてやさしい味。意外と大きいけれど、甘さ控えめなので、スイーツ好きなら何個でも食べられそう

ポルトガルの修道女が考えたという伝統菓子「パステル・デ・ナタ (pastel de nata)」。

マカオに持ち込まれたこのお菓子にアレンジを加えたのが、マカオを代表するスイーツ「エッグタルト」だ。サクサクのパイ生地と滑らかなカスタード。しっかり焼き上げた「エッグタルト」の焼きたての香りは、「お腹がいっぱいでもつい食べたくなる」とスイーツ目当てにマカオに来るという日本人女性が笑った。

街のいたるところで売られているが、地元の人気を2分するのは、「ロード・ストウズ・ベーカリー」と「マーガレット・カフェ・エ・ナタ」。オーブンから出したばかりの熱々の「エッグタルト」をほふほふ言いながら食べる。マカオの旅の楽しみのひとつだ。

船乗りたちが運んだ大航海時代の香り

マカオを代表する家庭料理「ミンチィ」。甘辛く煮た豚そぼろと角切りポテトの組み合わせは、日本人好みの味。

マカオを代表する家庭料理「ミンチィ」。甘辛く煮た豚そぼろと角切りポテトの組み合わせは、日本人好みの味。

16世紀の半ばごろの大航海時代、ヨーロッパの人々が探し求めたのがスパイスだ。ヨーロッパの上流階級にとって、スパイスは、食材を保存し味付けする”万能の薬“。豊かな市民階級も増え、その需要は天井知らずになる。

だが、当時、スパイスはアジア以外ではほとんど生産されていなかった。インドのコショウ、セイロン島(スリランカ)の肉桂(シナモン)、モルッカ諸島の丁字(クローブ)やバンダ諸島のニクズク(ナツメグ)。アジアのスパイスは、金と同じ価値があると、ポルトガルの港から船乗りたちはアジアへと船出した。

そんな大航海時代の歴史が香るのがスパイスたっぷりのマカオ料理だ。

その代表が多様なスパイスにココナッツミルクを加えて作る「アフリカン・チキン」。原型は、かのヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰を経て、アフリカのモザンビークにたどり着いたとき、現地で食べたスパイスが効いた辛い鶏のグリルとか。

16世紀、ポルトガルがインドのゴアに拠点を築くと、上陸した船乗りたちは、この鶏のグリルにさまざまなスパイスを加えた。マレー半島のマラッカでは、特産のココナッツが仲間入り。ポルトガルがマカオの居留権を得たことで、地元の調理法や広東料理とも融合し、マカオ名物「アフリカン・チキン」が誕生したという。

スパイスのピリリとした刺激とココナッツが甘く香るソース。マカオ料理は、ポルトガルに始まって、アフリカ、インド、インドネシア、マレーシア、中国まで、さまざまな国の文化が運ばれ、混じり合う。まさに歴史そのものだ。

「アフリカン・チキン」は、レストランごとに秘伝のレシピで作られる

「アフリカン・チキン」は、レストランごとに秘伝のレシピで作られる

カレーの香り漂うおでん屋横丁

なんとも不思議な組み合わせの路地裏グルメ“カレーおでん”はクセになる味。店によって、使っている香辛料や辛さが微妙に違う。

なんとも不思議な組み合わせの路地裏グルメ“カレーおでん”はクセになる味。店によって、使っている香辛料や辛さが微妙に違う。

マカオ観光の中心、セナド広場。ポルトガルから運んだ石が美しい紋様で敷き詰められ、周囲には、白や黄色の美しい建物が並ぶ。440年間もの間、マカオを統治していたポルトガルの面影が色濃く残る場所だ。

細長いセナド広場をさらに奥に進むと、風に乗ってふわりと漂うスパイスの香り。ん? カレーの匂い? おいしそうな香りに釣られ、横丁に入ってみた。

上を見ると、「咖喱(カレー)」の文字を掲げた看板がずらり。手にカップをもった人があちこちにいる。通りの名前は、大堂巷。”マカオ風おでん屋横丁“には、カレーの匂いが漂っている。「咖喱魚蛋」というこの料理、店頭に並ぶ串にささった練り物や野菜などを好みで選ぶと、その具材を煮込んでくれるというもの。p5-5

一見、日本のおでんと似ているが、ここで店員さんから「スパイシー?」と一言。とりあえず、「イエス!」と答えたら、煮込んだ熱々の”おでん“にカレーソースをかけてくれた。

たっぷり入った香辛料が練り物の淡白な味に不思議とよく合う。1980年代に屋台で始まったという ”カレーおでん“。東と西が融け合った歴史が作ったマカオならではの、路地裏グルメだ。

信仰心の篤い人々と線香の香り

寺院に吊るされた渦巻き線香。幾重にも重なった線香の煙が境内いっぱいに立ち込める。その香りに神聖な気分になる。

寺院に吊るされた渦巻き線香。幾重にも重なった線香の煙が境内いっぱいに立ち込める。その香りに神聖な気分になる。

マカオの街には寺院や廟が多い。その代表が媽閣廟だ。世界遺産にも登録されているマカオ最古の寺で、16世紀のはじめ、ガリオン船に乗ったポルトガル人がはじめてマカオに上陸したのが、この場所だという。

このとき上陸したポルトガル人が村の人に地名を聞いたところ、寺の名前を聞かれたと勘違いし、「媽閣」(マーコウ)と答えたことから、ポルトガル人が、半島全体を「Macau」(マーコウ)と呼ぶようになったとか。明朝時代からある中国語名「澳門(オームン)」と併せ、今まで当たり前のように使われてきたのも、東西文化が融合するマカオらしくて興味深い。

媽閣廟に入ると、けぶるような線香の香り。幸福を表す赤、富の黄色、長寿の緑。3つの色に彩られた廟内に、黄色い巨大な渦巻き状の線香が、いくつも天井からぶら下がっている。円錐状のオブジェにも見える線香の寿命は約1カ月。長い長い航海に出た船乗りの家族が無事を願って焚き続けやすいよう、この形になったという。独特の形をした線香は、あちこちの寺院でも見かける。東洋の文化の香りでもある。

マレー半島からやってきたココナッツの香り

かつて貿易の中継地として東南アジアのココナッツが集まってきていたマカオ。料理にも、スイーツにもココナッツはよく使われる。なかでも人気が、1869年創業の老舗のココナッツアイスクリーム専門店「洪馨椰子」だ。

ココナッツの果肉のみで作られたココナッツ100%のアイスクリームで、牛乳も生クリームも使っていないのに、濃厚でクリーミー。ほんのり甘く、口の中でとろけるときに、やさしいココナッツの香りが鼻腔にぬける。

また、「皇椰 椰子世家專賣店」も、ココナッツ100%のアイスクリームが人気の店。ココナッツプリンやココナッツジュースも味わえる。

石鹸の香りとイワシを焼く匂い

p5-8マカオの人気のお土産でもある石鹸。ポルトガル製が多く、華やかなパッケージとさまざまな香りで、ついつい沢山買い込みたくなる。

p5-6同じく、ポルトガルの香りと言えるのがイワシを焼く匂い。ポルトガルにルーツを持つマカオ料理では、炭火で焼いたイワシをよく食べる。もうもうと煙が上がるなか、こんがりと焼き目をつけて焼き上げた太ったイワシは、素朴ながら滋味豊か。こちらも大航海時代から始まる東西交流の歴史と結びついている。