海が運んできた味


Flavours Brought to Macao via Oceans

マカオのフュージョン料理は大航海時代のたまもの

古いコロニアル風の建物が残るタイパの街。特に夕暮れ時は美しく、路地に迷い込みたくなる。

古いコロニアル風の建物が残るタイパの街。特に夕暮れ時は美しく、路地に迷い込みたくなる。

マカオにおける東西文化の融合と共生は、「食」にも大きな影響を及ぼしている。大航海時代のポルトガルが、アフリカ、インド、東南アジアを経てマカオにもたらした食文化は、中国の食文化と溶け合いながら根付き、発展し、独特の食文化を形成してきた。2017年10月には、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が認定する「創造都市ネットワーク(UCCN)」において、食文化分野の創造都市に登録。食文化分野の創造都市は、全世界で26都市のみで、中国では四川省成都市、広東省順徳市に続く3番目の登録となる。

干した塩鱈とじゃがいもで作る「バカリャウのコロッケ」

干した塩鱈とじゃがいもで作る「バカリャウのコロッケ」

スパイスが香る「アフリカン・チキン」

スパイスが香る「アフリカン・チキン」

さまざまな国のニュアンスを感じるマカオ・ポルトガル料理。甘じょっぱく味付けした豚肉と揚げたじゃがいもを合わせたおふくろの味「ミンチィ」

さまざまな国のニュアンスを感じるマカオ・ポルトガル料理。甘じょっぱく味付けした豚肉と揚げたじゃがいもを合わせたおふくろの味「ミンチィ」

2000年代以降は、IR(統合型リゾート)の中にハイエンドなレストランが次々とオープンし、世界の名だたるシェフがマカオに進出。その勢いは止まるところを知らない。マカオが中国に返還されてから今年で20年。

ここでしか食べられないフュージョン料理も成熟の時を迎え、世界的にもますます注目が高まっている。

マカオの新旧グルメが続々出店しているタイパ

近年、グルメタウンとして人気のタイパは、もともとポルトガル人の別荘地として発展した歴史があり、今もポルトガル料理店が多い。

ポルトガルに本店を持つ由緒ある店から、大航海時代に海を渡ってきたポルトガル人の末裔が腕をふるう店、小皿料理でワインを楽しむバルなど、バリエーションにも富んでいる。

マカオの食に詳しいフード・ジャーナリストの男性によると、「マカオのほとんどのポルトガル料理店には、ポルトガルにないメニューがあります。それは、伝統的なポルトガル料理をベースに、大航海時代にポルトガルがたどったアフリカやインド、東南アジアの食材や香辛料を加え、広東料理の技で磨きをかけた『マカオ料理』。その代表格が、『アフリカン・チキン』です。店ごとに形は違うのですが、ポピュラーなのは、鶏肉にスパイスやココナッツを使ったソースをからめたタイプ。多種多様な旨みと辛み、香りを感じる重層的な味わいがクセになります」とか。

ルーツはアフリカとされ、ヴァスコ・ダ・ガマがモザンビークで食べたスパイシーなグリルチキンがベースという説もある。

また、カニをたっぷりのスパイスで煮た「カレークラブ」や、エビとビーフンのスープ「ラカサー」など、東南アジアを感じさせる料理とポルトガル料理が同居し、どちらもおいしく食べられるのがマカオの楽しさだ。

この歴史、素材、優れた料理人がマカオのガストロノミーを支えているが、「もうひとつ、マカオっ子が食いしん坊だというのも大事なポイント。飲食店がひしめくタイパでも、よく見ると、地元の人が集中している店と、そうでない店が明らかです」(同)。

他にもタイパには、マカオ半島に本店を構える広東料理店の支店や、新進気鋭のインド料理店、日本式の居酒屋、マカオ名物ポークチョップバーガー発祥の店、オーガニック・カフェなど、流行りの店が軒を連ね、旅行者は店選びに迷う。できれば、地元の人にリサーチしてから行くのがおすすめだ。

マカオ有数の歓楽街が再開発でグルメストリートに変貌

観光がてら歩いてみたいグルメストリートが、マカオ半島の新馬路の西側にある「福隆新街」だ。かつて、賭博場や遊郭があったという長さ200mほどの通りは、マカオの主要埠頭だった内港から上陸してくる船乗りや商人たちで、さぞかしにぎわったに違いない。赤い格子窓を持つ長屋風の建物に、今では多くのレストランやお土産店が入居。記念写真スポットになっている。

今年、2度めのマカオ食べ歩きツアーを敢行する予定だという女性は、「中国の人がよく並んでいるふかひれ専門店や、地元っ子に人気の老舗のポルトガル料理店、お土産に人気のアーモンドクッキーやポークジャーキーの専門店、カラフルなドリンクスタンドなど、気になるお店が多すぎてなかなか前に進めない通りです。でも、お店が全部閉まって、人がほとんどいなくなる夜遅い時間も、往時の雰囲気を彷彿とさせて素敵ですよ。油断は禁物だけど、マカオは治安がいいので、夜の散歩ができるのも魅力です。お腹がすいたら、深夜までやってる粥や麺の食堂があるしね」と、楽しそうに話してくれた。

埋め立て前の海岸線がわかる華人街「十月初五日街」

マカオ半島の西側を南北に走る「十月初五日街」。くねくねとした曲線を描く通りは、埋め立て以前、すぐ外側に海岸線があった名残だ。通りの名前はポルトガル本国で起こった革命の日にちなんでいるが、ポルトガル色はほぼ皆無。レトロな華人街の雰囲気が今も残っている。通りの両側には、マカオがかつて東西貿易の拠点だったことを彷彿とさせる老舗の中国茶の問屋や、魚介の乾物店、漢方薬店などが軒を連ね、今も地元の人たちに愛されている。

また、茶餐廳(喫茶店と食堂を足したような広東式の食堂)、麺・粥の店、スイーツなどの飲食店もよりどりみどりで、お土産探しや食べ歩きにもおすすめだ。南欧風に整備された街並みや、IRの煌びやかさとは異なる素顔のマカオに出会える。観光に疲れたら、ついここに” 帰って“きてしまうという日本人旅行者の女性は、「お店はたくさんあるし、狭い通りを路線バスやバイクがひっきりなしに通るのですが、どこかのんびりとしたムードがあるんですよね。学校帰りの子どもたちや、商売より世間話に忙しそうなおばちゃんたち、店先で昼寝をしている猫など、日常の風景に癒やされます。早朝から開いている食堂も多いのは、商売人の街だからですかね。地元の人に混じってお粥で朝ごはんするのが楽しみです」と、にっこり笑った。

2018年10月に、香港・珠海・マカオをつなぐ港珠澳大橋が完成し、アクセスもぐっと便利になったマカオ。返還20周年を迎える今年こそは、じっくり時間をかけて、その魅力を満喫したい。