蓮の花が告げる夏の訪れ。 マカオは花で彩られる


Lotus blossoms in early summer create a floral canvas in Macao.

世界遺産観光の拠点と なるセナド広場にも、た くさんの蓮の鉢植えが並 べられ、一層華やかな ムード。夏の到来を象徴 する風景だ。

世界遺産観光の拠点となるセナド広場にも、たくさんの蓮の鉢植えが並べられ、一層華やかなムード。夏の到来を象徴する風景だ。

マカオのシンボル「蓮」は市民にとって特別な花

マカオ半島のランドマーク、グランド・リスボア。蓮をモチーフとした建物の外壁には約6万のLED装飾がされ、マカオを照らし輝いている。

マカオ半島のランドマーク、グランド・リスボア。蓮をモチーフとした建物の外壁には約6万のLED装飾がされ、マカオを照らし輝いている。

亜熱帯のマカオでは、一年を通してさまざまな花が見られる。数多くの庭園や公園の花壇、南欧風建築の窓辺に咲く花々に心癒され、街路樹が年に一度だけ咲かせる花の鮮やかさに、ハッとすることもしばしばだ。

数ある花の中でも、マカオの人たちが特に大切にしているのが、マカオと縁の深い「蓮」。北宋の儒学者、周敦頤(しゅう・とんい)が「蓮は泥より出でて泥に染まらず」と記したように、汚れた泥から生じ清らかな花を咲かせる蓮は、清濁が混在する人間社会の中での知慧や慈悲の象徴。仏教との関わりも深く、極楽浄土に咲く尊い花のイメージもある。

ウォーターフロントに佇む高さ20mの観音像の台座にも、蓮の花のモチーフが使われている。黄金の観音像は太陽の光でさらに輝き、海を背景にくっきりとした姿で立っている。夜、ライトアップされた観音像もまた美しい。純白の蓮の花をかたどったドーム状の台座の内部には、仏教、道教、儒教関係の資料が閲覧できる図書館や、土産物、文化局の刊行物を売るショップなどが入っている。

また、マカオ半島のランドマークとも言える地上58階、高さ260mの巨大ホテル「グランド・リスボア」は、蓮をかたどったデザインが特徴的だ。夜、イルミネーションに彩られた建物は、「光輝く蓮の花」。マカオ中心部のどこからでも、その美を楽しむことができる。マカオのベテランガイド氏は、「蓮は、今も昔もマカオの象徴であり、マカオの人たちにとっては守り神にも似た存在。これまで数々の戦禍をやり過ごし、台風などの災害をくぐり抜けてこられたのも、蓮の恩恵だと考えられています」と、話す。

蓮のみずみずしい香りに包まれる6月のマカオ

漁村の雰囲気を今に残す、コロアンの聖フランシスコ・ザビエル教会前に咲く蓮。空の青と教会の黄色、ピンクの蓮のコントラストが美しい。

漁村の雰囲気を今に残す、コロアンの聖フランシスコ・ザビエル教会前に咲く蓮。空の青と教会の黄色、ピンクの蓮のコントラストが美しい。

マカオでは、今もそこかしこで蓮の花を見ることができるが、とりわけ見事な蓮が見られるのが、毎年6月、蓮の開花がピークを迎えるころに開催される「マカオ・ロータス・フラワー・フェスティバル」(6月3日〜16日)だ。今年で19回目を迎える恒例のイベントで、その年ごとに蓮の特定品種が選定され、主な観光地や公園、広場、ストリートなどにたくさんの鉢植えが飾られる。

中でも多くの見物客で賑わうのが、タイパ・ハウスだ。1921年に建てられた5棟の洋館は、かつてポルトガルの高級官僚らが暮らした場所。政府が博物館として改装し、1999年から一般公開され、2016年には、「マカエンセの生活ミュージアム」「展示ギャラリー」「クリエイティブ・カーザ」「ノスタルジック・ハウス」「レセプション・ハウス(非公開)」としてリニューアルした。ペパーミント・グリーンで統一された南欧風建築と、ピンク色の蓮の花の絶妙なコントラストが、なんともフォトジェニックだ。地元の学生だという女の子たちに話を聞くと、「タイパ・ハウスは、人気のデートスポットですが、フェスティバルの時期は特にカップルでいっぱい。写真を撮りながら並木道をゆっくり歩いて、帰りにタイパのおしゃれなカフェでお茶するのが定番コースです」と、楽しそうに話してくれた。

タイパ・ハウスの前には、蓮が群生する広い湿地帯があり、その先に埋立地であるコタイのIR群がそびえるマカオらしい風景が見られる。前出のガイド氏によれば、「タイパ・ハウス前の通りは、もともと海岸線だったところで、湿地帯は周囲が埋め立てられたことによってできたものです。タイパは小さな島でしたから、埋め立て前からあるエリアと、埋め立てでできたエリアがひと目でわかるのが面白いところ。古くてカラフルな建物が密集しているのが、元からあるエリアで、歩いて回れるほど小さい島だったことがわかります」カラフルな南欧風建築と蓮の競演は、マカオ半島の観光の拠点となっているセナド広場、コロアンの聖フランシスコ・ザビエル教会前広場などでも、楽しむことができる。

「セナド広場では、噴水を取り囲むように蓮の鉢が並べられ、とても華やかな雰囲気。コロアンの蓮は、どこか慎ましやかで、一輪、二輪、ポツポツと花開く姿に心癒されます」(同)

南欧風建築、中国庭園にも蓮、蓮、蓮!

中華人民共和国国務院から贈られた、盛世蓮花広場の金色の蓮のオブジェ「盛世蓮花」は、マカオの永遠の繁栄を象徴している。

中華人民共和国国務院から贈られた、盛世蓮花広場の金色の蓮のオブジェ「盛世蓮花」は、マカオの永遠の繁栄を象徴している。

中国の王道的な蓮池を見るなら、ロウリムイオック庭園へ。19世紀後半につくられた中国人の豪商の庭園を政府が買い取り、1974年から一般公開している。特徴的な円形の門に至る道の左右には、たくさんの蓮の鉢植えが並べられ(時期により別の鉢植えになることも)、クラシックな中国蘇州様式の庭園の中央に蓮池がある。池の周りを曲がりくねる「九曲橋」が特徴的だ。この橋は、「悪魔はまっすぐにしか進めない」という中国の言い伝えから、魔よけの意味があるという。

「蓮の花は夜明けとともに咲き始めるから、写真を撮るならできるだけ早い時間に来るといいよ」と教えてくれたのは、立派なカメラを首から下げた地元のおじさん。昨年撮ったという蓮の写真を見せてくれた。早朝の澄んだ空気の中で咲く大輪の花は、さぞかし神秘的な美しさだろう。庭園はマカオ市民の憩いの場で、早朝から東屋で二胡を演奏する人、中国将棋を楽しむ老人たち、太極拳のグループも見られる。何事もスピーディーに変化し続ける観光都市、マカオの中心部にありながら、昔ながらのゆったりとした時間が流れる稀有な場所だ。

アジアンスイーツマニアの女性が、「蓮は見るだけでなく、食べて楽しむこともできるんですよ。食べられるのは蓮の実の部分。もちっとしたデンプン質でほんのり甘く、トウモロコシにも似た食感があります。ペースト状の”蓮あん“にして月餅に入れたり。ゴマやアーモンドの温かいおしるこに具として加えたり。ロータス・フラワー・フェスティバルの時期は、蓮にちなんだ料理を出すレストランもあるので、ぜひ食べてみてください」と、教えてくれた。

蓮にまつわるお寺?マカオの名刹「蓮峯廟」

マカオには蓮の名を冠した寺もある。マカオ三大古廟のひとつで(残り2つは媽閣廟と観音堂)、1592年に創建された「蓮峯廟」だ。ここはかつて、中国の役人がマカオのポルトガル役人と会談していた場所でもあり、1839年、中国の欽差大臣だった林則徐が、アヘン撲滅のためにポルトガルの官吏に協力を要請したのも、この寺だった。寺院の前庭には、彼を讃えた180cmの花崗岩の林則徐像があり、境内には博物館もある。

ガイド氏によると、「蓮峯廟には、阿媽、観音菩薩、関帝など、道教と仏敎の神様仏様が勢揃いしています。マカオ半島北部の繁華街から少し離れた場所にある”穴場“なので、街の喧騒とは無縁。地元の人たちの素朴な信仰の場であり、憩いの場です。寺院の美しい彫刻などをゆっくりと見学できますし、小さな朝市も開催されているので、早起きして出かけるのもいいですね」とのこと。

蓮と神仏のご加護で、いい時間を過ごせるに違いない。

タイパを散策中にふと上を見ると、南欧風の街灯とブーゲンビリアの鮮やかな色が目に飛び込んできた。旅行者を優しくもてなしてくれているようで、なんだかうれしい。

タイパを散策中にふと上を見ると、南欧風の街灯とブーゲンビリアの鮮やかな色が目に飛び込んできた。旅行者を優しくもてなしてくれているようで、なんだかうれしい。

街角や公園、庭園、ホテルで旅人の疲れを癒す南国の花

コロアンの街角、ピンク色の住宅の前で見かけた真っ赤なサルビアに、思わず頬が緩む。

コロアンの街角、ピンク色の住宅の前で見かけた真っ赤なサルビアに、思わず頬が緩む。

初夏は蓮以外にも、南国らしい花々が開花するシーズンだ。例えば、街のいたるところに咲いている、ブーゲンビリアの花。赤やピンクの小さな花は、マカオ半島の山の手にある高級住宅街や、ラザロ地区、タイパ、コロアンなどの、パステルカラーの建物によく似合う。「壁や屋根に枝を誘引して、赤い装飾のように咲かせているのも見かけます。マカオは人口密集地で、ほとんどの人はマンション住まいなので、そうした一軒家は羨望の的でもあります」と、地元企業に勤める女性。

このほか、ジャカランダ、プルメリア、ハイビスカス、鳳凰木の真っ赤な花も見頃を迎える。花をゆっくりと眺める余裕も、旅人の特権かもしれない。

花をテーマにしたホテルもある。2016年にオープンした高級リゾート「ウィン・パレス」だ。建物内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、花。エントランスロビーから館内の通路、各種施設など、至る所が花で埋めつくされている。数十万株にも及ぶといわれるそれらの花は、なんとほとんどが生花。毎日専門のスタッフが丁寧に手入れし、館内は天然のみずみずしい香りが漂う。

コタイのIR「ウィン・パレス」は花をテーマにした高級リゾート。各所に花のモチーフが配され、生花のみずみずしい香りが漂う。エントランスには、生花で作られたアトラクション性のあるオブジェを展示。4 ~ 6週ごとに入れ替えられるので、いつも新鮮な驚きがある。

コタイのIR「ウィン・パレス」は花をテーマにした高級リゾート。各所に花のモチーフが配され、生花のみずみずしい香りが漂う。エントランスには、生花で作られたアトラクション性のあるオブジェを展示。4 ~ 6週ごとに入れ替えられるので、いつも新鮮な驚きがある。

3カ所あるエントランスには、花のアートを展示。そのひとつが、米国の著名なアーティスト、ジェフ・クーンズ氏が制作した「チューリップ」だ。風船をひねってつくる花をイメージしたという作品で、今にもふわっと飛んで行きそうに見えるが、実はこのチューリップは重さ3トンのステンレス製。「チューリップ」シリーズは世界に全部で5つあり、他4つはすべて美術館に収蔵されているという。ほか2カ所のエントランスには、アトラクション性のある花のアートが展示されている。

例えば、7万5000本のチューリップで作られた風車、3万本のバラで作られたびっくり箱、8万5000本の花で作られたメリーゴーラウンドや観覧車などが、4〜6週に1度入れ替えられ、毎回、新鮮な雰囲気を味わえるようになっている。

ホテルフリークの日本人女性によると「エントランスによってオブジェが違うので、待ち合わせにも便利。床のタイルや、客室内にも花のモチーフが使われ、まさに花の”宮殿“のようなホテルです。お姫様気分で過ごせますよ」と、かなりお気に入りの様子。女性の夢を叶える花の宮殿。館内には、魅力的なレストランが多く、目の前には20分から30分に一度、噴水ショーが無料で見られる「パフォーマンス・レイク」もあるので、花とアートの見学がてら、訪れてみたい。もちろん、奮発して宿泊できれば最高だ。

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生花は春節に欠かせない金運を呼ぶ縁起物

南欧風建築の窓辺を飾るプランターのカラフルな花々にも心癒される。

南欧風建築の窓辺を飾るプランターのカラフルな花々にも心癒される。

ところでマカオでは、旧暦の新年を祝う春節(チャイニーズ・ニューイヤー)にも生花がつきものだ。市場周辺やフィッシャーマンズ・ワーフ、ラザロ地区の塔石広場などに生花市場が立ち、たくさんの買い物客でにぎわう。というのも、中華圏では「花開富貴(花が開くように金が満ち溢れ、金持ちになる)」と言われ、生花は縁起物なのだ。

中でも縁起がいいといわれるのは、菊(長寿)、水仙(いい香りが幸運を運ぶ)、桃(良縁、長寿)など。キンカン(中国語で金桔)などの柑橘類は、「桔」の字が「吉」と同じ発音となり、金運アップを象徴。日本の門松のように、玄関の両脇にキンカンの大きな鉢植えを置いている家や商店も多い。地元の商店主の男性が、「キンカンの実は、大きければ大きいほどいいよ。たくさんの富を運んでくれるからね!」と、豪快に笑った。

一年中暖かい亜熱帯のマカオでも、季節の移り変わりを感じさせる街角の花。旅人をもてなすホテルのゴージャスな花。行事に欠かせない花。次にマカオに行くときは、暮らしを彩る花に目を向けてみよう。

蓮の実は甘いお菓子に!

食べてもおいしい蓮。地茎=レンコンはもちろん、花や葉は香り高いお茶に、花が散ったあとに現れる蜂の巣のような花托部分の、たくさんの穴の中にひとつずつ入っている「実」も食べられる。蓮の実は、日本では精進料理に使われるくらいだが、中国や東南アジアでは甘く煮ておしるこやかき氷に加えたり、ペースト状にして月餅や最中のあんにしたり、お粥の具などにも使われる。漢方では、滋養強壮、婦人病の予防、胃腸を整える生薬としても古くから使われてきた。ホクホクとしたやさしい味わいで体にもいい蓮の実。マカオで出会ったらぜひお試しを。