マエストロたちが生み出すアートな一皿


Artistic dishes created by maestros

左:「ザ・テイスティング・ルーム」から、赤座エビと緑の豆、牡蠣と海水ゼリーの組み合わせ。右上:「ザ・テイスティング・ルーム」から、フランスのコート・ドパール産の白身魚に、プロヴァンス産グリーン・アスパラガス、シャンパーニュソースを添えて。下中:フランスのブランド牡蠣、ジラルドー。下右:カニのリゾットに、スズキのカルパッチョ、キャビアをのせた贅沢なひと皿。

左:「ザ・テイスティング・ルーム」から、赤座エビと緑の豆、牡蠣と海水ゼリーの組み合わせ。右上:「ザ・テイスティング・ルーム」から、フランスのコート・ドパール産の白身魚に、プロヴァンス産グリーン・アスパラガス、シャンパーニュソースを添えて。下中:フランスのブランド牡蠣、ジラルドー。下右:カニのリゾットに、スズキのカルパッチョ、キャビアをのせた贅沢なひと皿。

ガストロノミー界の巨匠が次々と進出

コタイに林立するIR。華やかな雰囲気の中で館内には、世界の美食が集結していると言っても過言ではない。

そう、今やマカオは、ジョエル・ロブション(故人)や、アラン・デュカスといったフランス料理の巨匠から、世界の一流ホテルを渡り歩いてきたトップ・シェフ、最先端のグルメ・シーンで注目される気鋭の料理人がしのぎを削る世界でも屈指の美食の街であり、その勢いは、とどまるところを知らない。

「例えば、今年2月、ウィン・パレスにオープンした四川料理の『シチュアン・ムーン』は、名シェフ、アンドレ・チャンをディレクターに迎えて、26品にも及ぶディナーコース1本で勝負。四川料理というと、辛みだけが際立つイメージがありますが、本来24あるという風味を分解、再構築し、絵画のようなプレゼンテーションで生き生きと表現しています。希少な中国茶を揃えたティーラウンジも併設されていて、これまでにない食体験ができると評判。予約がなかなか取れないので、この店の予約が取れたらマカオに行くという人は多いでしょうね」と、マカオ通の女性は話す。

「ロブション・オー・ドーム」から、ジョエル・ロブションのDNAを感じる前菜「キャビア・アンペリアル・ロブションスタイル」。

「ロブション・オー・ドーム」から、ジョエル・ロブションのDNAを感じる前菜「キャビア・アンペリアル・ロブションスタイル」。

テーブルの上の「サプライズ」

レストランをハイエンドたらしめる条件は多岐にわたるが、料理だけで言うならば、味覚的な「おいしさ」は当然のことだ。世界中からやってくる美食家を魅了するには、貴重で高価な食材を使うだけでは不十分で、五感に訴えかけてくる「驚き」がなくてはならない。素材の意外な組み合わせや、予想外の食感、プレゼンテーションがものを言う。

世界のレストラン・シーンに詳しいフードライター氏は、「料理のおいしさって、いわば主観なんですよね。特に、一流と言われるレストランの料理の場合、特別に味覚の鋭い人でなければ、細かい味の違いを比較・分析して評価するのは難しいでしょう。では、みんな何をもって『おいしい』と感じるのかというと、決め手の半分以上は見た目と香り、最後に味なんだと思います。さらに言うと、見た目や香りと、味や食感とのギャップが大きいほど、印象に残りやすい。一流のシェフは、そこのところをきちんと計算しています」と、見ている。

クラシックなワゴンで運ばれてくる多種多様なパンを選ぶ楽しみも。

クラシックなワゴンで運ばれてくる多種多様なパンを選ぶ楽しみも。

”料理界の両雄“が並び立つマカオ

マカオ半島のランドマーク、グランド・リスボアの最上階にある「ロブション・オー・ドーム」は、フランス料理界の巨匠で今は亡きジョエル・ロブションのメニューが味わえる、トップクラスのレストランだ。これまで、11年連続でミシュランの三つ星を獲得しており、世界の美酒を網羅した驚愕のワイン・コレクションがあることでも知られる。

スペシャリテの「キャビア・アンペリアル・ロブションスタイル」は、たっぷりのキャビアの下にカニがぎっしり。周囲はロブスターのジュレで、カリフラワーのピュレとパセリで等間隔に打たれたドットがロブションのDNAを物語る。見た目も味も宝石箱のような一皿だ。

今年、始めて同店を訪れたという男性は、「日本でも、もちろんフランスでも、ロブションのレストランというと、敷居が高くて、腰が引けてしまうなと思っていましたが、リゾート感のあるマカオのホテルならと、思い切って予約。ランチなら予算もお手頃ですし」と、体験を語る。実際に足を運んでみると、その素晴らしさは予想以上で、「マカオの街が一望できるガラス張りの店内では、噂のスワロフスキーのシャンデリアがお出迎え。熟練のサービスのおかげでリラックスでき、精密に作り込まれた料理を堪能しました。パンやデザートのワゴンサービスも楽しかったし、再訪間違いなしです。次はぜひディナータイムに」と、感動冷めやらぬ様子だ。

一方、コタイのシティ・オブ・ドリームズ(以下、C.O.D.)のホテルで2018年にオープンした、ザハ・ハディドの設計によるモーフィアスにも、フレンチの巨匠が手掛ける「アラン・デュカス・アット・モーフィアス」がある。デュカスがプロデュースするレストランは、世界にいくつもあるが、マカオや中国の料理にインスパイアされたフランス料理が味わえるのは、ここだけ。開業1年足らずでミシュランの2つ星を獲得したことでも話題となった。

キャビアをひまわりの花のように仕立てた一品など、ツイストを効かせたフランス料理が楽しめる。p1-5

モダンなオリジナル料理にため息

また、同ホテルの中国料理店「Yi(イー)」は、メニューに「珍」「湯」「鮮」など、漢字一字しか記入されていないという話題の店で、日本料理の「おまかせ」から着想を得たという「Omakase」スタイルで、旬の食材を取り入れた8皿のオリジナルコースを提供。シェフは、マレーシア出身のウィルソン・ファム、香港出身のアンジェロ・ウォンという気鋭のタッグだ。さらに、ロビーラウンジは、モダンパティシエの王とも称されるピエール・エルメとのコラボレーションとなっている。

「ガストロノミー界に輝くスターが、ひとつのホテルに揃っているのも、マカオのIRならでは。これからできるIRも、食にはかなり力を入れてくるに違いなく、目が離せません」と、前出のフードライター氏は言う。C.O.D. のラグジュアリー・ホテル「ヌーワ・マカオ」のモダン・フレンチ「ザ・テイスティング・ルーム」は、フランス料理の精神を重視しながらも、現代的にエッジを効かせた料理に定評がある一軒。エグゼクティブ・シェフのファブリス・ヴュランは、長年、フランスや香港の一流レストランで活躍してきた実力者だ。フランスから取り寄せる素材を中心としながら、アジアの素材も縦横無尽に使いこなし、シンボル・モチーフの蝶をあしらったプレートに四季折々の” 景色“を作り出すアーティストでもある。

同店のシグネチャー・ディッシュのひとつとして知られる、ブルターニュ産オマール・ブルー(ブルー・ロブスター)を使った前菜は、薄く切ったスイカを土台に、茹でたロブスターの身をゆず風味のヴィネグレットで和えたものや、オマールのコンソメゼリー、薄切りのカルパッチョなどを重ね、キャビアやフルーツ、ハーブ、クリームなどが飾られる。

これだけの要素がありながらも、無駄なものはひとつとしてなく、ロブスター本来のおいしさを存分に表現しながら、ひと口ごとにシェフの仕掛けがスパークするのは、さすがの一言。また、フランスのブランド牡蠣、ジラルドーには、その殻を開けたときに出る牡蠣のエキスをアガー(海藻由来の凝固剤)で固めた” 海水ゼリー“をのせ、採れたての牡蠣のみずみずしさを伝える。色鮮やかなレタスのヴルーテも、軽やかで気が利いている。

洗練のインド料理はマカオの新しい味

アジアで初めてミシュランの星を獲得したインド料理店も、実はマカオにある。ザ・ヴェネチアン・マカオの「ザ・ゴールデン・ピーコック」だ。

インド料理というと、全体的に赤、黄、茶色のイメージがあるが、こちらのディナーは、驚くほどカラフルでアーティスティックだ。例えば、オーガニック・チキンをザクロとビーツのソースでマリネしたという、ピンク色のチキン・ティッカは、本場・インドの旅行者にも人気が高い。

また今年は、「アート・マカオ」の展覧会にインスパイアされた期間限定コースも話題となった(現在は終了)。

スターターは、9種類のディップやチャツネを添えたパパド(豆のペーストを焼いたクラッカー)。フレンチを思わせるマッシュルームとレンズ豆のスープにはトリュフの香りを効かせ、春巻きやライスパフ、カリッとしたパンを添え、ハーブや小さなエディブルフラワーをあしらった。

「デザートも、非常にアーティスティックでした。アート・マカオに出品された、キャロライン・チェンの代表作である、セラミック製の青と白の蝶で作られたドレスに捧げられたメニューです。シェフは、伝統的なドイツのブラック・フォレスト・ケーキをヒントに、この鮮やかな『ブルー・フォレスト』(写真左上)を作ったとか。インド料理店でこうしたデザートが食べられるなんて、世界広しといえども、なかなかないと思いますよ」と、地元メディアのスタッフ。

ゴージャスで斬新な料理・演出と、それをキャッチする食に敏感な人々との幸せな出会いが、マカオのフード・シーンをますます活気づけているようだ

アフタヌーン・ティーもマカオ流

ホテルの定番、アフタヌーン・ティーも、マカオではよりどりみどり。スイーツマニア垂涎のさまざまな趣向が凝らされている。例えば、ギャラクシー・マカオのライフスタイル・カフェ「チャ・ベイ」。パステルカラーを基調としたガーリーなインテリアは、SNSでの話題性も抜群だ。花やドレスをモチーフにしたケーキは、まさに美術品のような趣で、ブライダルや誕生日のお祝いなど、特別な日のためにオーダーする人も多いとか。人気のアフタヌーン・ティーは予約ができないとあって、開店前から女性たちが列をなす。この店が旅の第一目的だったという20 代の“女子旅”ガールズは、「マカオでいちばんインスタ映えするアフタヌーン・ティーだと思います。ポップでロマンチックな色使いのスイーツやフィンガーフードが、ジュエリーボックスのような容器にたくさん。

つい、写真を撮ることに夢中になって、食べ始めるまでに10 分以上かかってしまいました(笑)。ひとつひとつのデザインが凝っていて、食べるのがもったいないほどなのですが、もちろん味も二重マル。ティーカップや取り皿の趣味もよく、ずっと夢の世界にいるようでした。見た目はとてもキュートですが、かなりボリュームがあるので、お昼は控えめにして出掛けたほうがいいですよ」と、教えてくれた。