カフェめぐりのスタートは
庶民の暮らしに根付いた茶餐廳から



CAFE

茶餐廳 The Old Local Cafe
左:吹き抜けの天井にはレトロなファンが回っている「香島咖啡室」 / 中上段:「香島咖啡室」は賑やかな住宅街にある庶民的なお店 / 中下段左:「香島咖啡室」の柯さん / 中下段右:タピオカ入りのミルクティー / 右:昔ながらの小さな店が軒を連ねる十月初五街。掘り出し物に出合うかも!?

左:吹き抜けの天井にはレトロなファンが回っている「香島咖啡室」 / 中上段:「香島咖啡室」は賑やかな住宅街にある庶民的なお店 / 中下段左:「香島咖啡室」の柯さん / 中下段右:タピオカ入りのミルクティー / 右:昔ながらの小さな店が軒を連ねる十月初五街。掘り出し物に出合うかも!?

上段左:沙翁(手前)とミルクコーヒー / 上段右:「南屏雅叙」のショーケース / 下段:でき立ては、ほんのり温かいサンドウィッチ

上段左:沙翁(手前)とミルクコーヒー / 上段右:「南屏雅叙」のショーケース / 下段:でき立ては、ほんのり温かいサンドウィッチ

「お勘定、78パタカ(ライパイ サム パマン)、お願〜い!」

2階フロアを取り仕切る陽気なおばさんが、階下のレジに向かって声を張り上げた。と、階下から「78パタカだね」と、おうむ返しに声が返ってくる。茶餐廳と呼ばれるマカオならではの下町のカフェ「南屏雅叙(ナムペンンガーチョイ)」でのひとコマである。

ただし、「ライパイ サム パ マン」の言い方は、ちょっと変。本来「ライパイ」は曜日の意味だが、ここでは7を表す隠語。「サム」は十の位を、「パ」は8、「マン」はパタカと同意義で使用。これらを繋いで、78パタカ。聞き間違いがないよう正確な勘定を伝えるために、この店が独自に編み出した表現方法なのだ。これなら、面倒な勘定書も必要ない。ひっきりなしにやってくるお客さんを要領よくさばくための、知恵の産物なのだ。

マカオの多彩なカフェ文化探索は、こうした庶民の暮らしにどっぷりと根付いた下町のカフェから始めるのが一番だ。

パンとコーヒーはもちろんカフェではラーメンも定番!

1967年創業というこの食堂風の茶餐廳が一番賑わうのは、早朝の7〜8時頃。近隣の高層アパートの住人や、店が接する古びた問屋街・十月初五街周辺で働く人々で連日ごった返している。相席を確保することさえ大変だ。

テーブルを見回すと、客の多くがチャーシュー入りの厚焼き卵のサンドウィッチと、ミルクコーヒーを注文している。沙翁(サーヨン)という名の揚げパンを頬張る人もちらほら。これはポルトガルの揚げ菓子・ソーニョスが原形とか。長らく宗主国として君臨していたポルトガルの影響が、庶民の生活の隅々にまで浸透している姿がここからも読み取れる。

客に目をやると、ボックス席にどっかりと腰を下ろして新聞に見入る人や、パンをコーヒーで流し込んで早々に出て行く人などさまざま。

品書きを眺めながらしばし迷っていると、「ラーメンがおいしいから食べて行きなよ」と、レジの前で慌ただしく動き回る店主・梁リャンさんが声をかけてくれた。

左:「出前一丁」を運んできてくれた女性店員 / 右:十月初五街に面した茶餐廳兼ベーカリー・カフェ「南屏雅叙」

左:「出前一丁」を運んできてくれた女性店員 / 右:十月初五街に面した茶餐廳兼ベーカリー・カフェ「南屏雅叙」

おすすめに従って注文すると、出てきたのはなんと、インスタントラーメンの「出前一丁」! 日本のインスタントラーメンは、マカオでは思いのほか一般的な食事メニューで、この店だけでなく、下町の飲食店の定番料理のひとつにまでなっているのだ。

店先にはショーケースもあり、フワフワのパンやロールケーキなどの焼き立てが次々と並べられていく。テイクアウト用のパンを買い求める客もひっきりなしにやってくるから、その対応にあたる梁さんも、せわしないことこの上ない。

ともあれ、マカオ滞在初日は、洋食と中華メニューを取り揃えた茶餐廳からスタートして、庶民の暮らしぶりを知ることから始めたい。

下町ウォーキングの楽しさが増す
マカオの歴史を垣間みられるカフェ

下町情緒あふれるエリアといえば、前述の十月初五街周辺のほかに、マカオ半島北部の三盞燈(サムジャンタン)周辺もそのひとつ。今も屋台がそこかしこにひしめくマカオきっての下町だ。近くには、紅街市という名の赤煉瓦造りの市場もあり、1939年以来、今日に至るまで、マカオ庶民の台所として賑わい続けている。周囲には古びた高層アパートがびっしり立ち並んでいるが、その 一角に店を構えるのが、レトロな茶餐廳の「香島咖啡室(ヒョンドウガーフェサッ)」である。こちらも創業は1967年。

「これでも、当時は結構おしゃれな店だったんですよ」と、女性オーナーの柯美儀(クァーメィイ) さんが言う。確かに吹き抜けの天井を見上げると、古びたとはいえ、大きなシーリングファンが回っている。1階2階とも、シンプルなテーブルとイスがあるだけで今はとてもゴージャスとは言い難いが、創業当時は洋風の香りが漂っていたのだろう。

メロンパンならぬパイナップルパンが人気

バターをはさんだパイナップルパン

バターをはさんだパイナップルパン

ここでの人気メニューは、菠蘿包(ポーローパウ)という名のパイナップルパン。パン生地の上にクッキー生地をのせて表面がカリカリになるまで焼いたものだが、見かけは日本で見慣れたメロンパンにそっくりだ。ただし、外側はパリッとした歯ごたえながらも、中は日本のものよりもフンワリと柔らかく、おいしい。同様のパンは、お隣の香港ではすでに1910年代から出回っていたというから、日本よりも早くから流行っていたのだろう。

このパイナップルパンに切れ目を入れて、冷やした薄切りのバターをはさんだ菠蘿油(ポーローヤウ)と、ミルクティーの奶茶(ナイチャー)との組み合わせが、柯さんのおすすめ。

「この組み合わせは、外国人の観光客にも評判がいいんですよ」とか。まずは菠蘿油からガブリ! サクッとした歯ごたえの後に、濃厚なバターの風味が口いっぱいに広がってくる。そこに、ミルクを加えてまろやかになった奶茶を口に含めば、バターが口の中でとろりと溶けて、風味がいっそう引き立ってくる。確かに客の多くが、この組み合わせで注文するのもうなずける逸品である。

暑い日なら、タピオカ入りのミルクティー・珍チェン珠ジュウ奶ナイ茶チャーもおいしい。グラスの下に沈んだ黒くて大粒のタピオカは、太めのストローで吸い上げて食べる。モチモチッとした食感が何とも心地よい。ちなみにタピオカは大半がデンプン質だから、お腹の足しになるのも好都合だ。

1日700個も売れるポークチョップ・バーガー

マカオ観光の中心地・セナド広場近くで立ち寄るなら、清代から賑わっていたという營地街市(市場)へと向かいたい。前ページで紹介した「南屏雅叙」のある十月初五街も、半世紀ほど前まで交易の地として栄えていたところ。しかし、三盞燈周辺やこのあたりはさらに歴史が古く、清代から露店がひしめいたといわれる庶民の町である。營地街市は1998年に7階建てのビルとなったが、その周りには今も露店が立ち並んで、下町風情にあふれている。

入口にパンのショーケースが置かれた「金馬輪咖啡餅店」

入口にパンのショーケースが置かれた「金馬輪咖啡餅店」

そのすぐ近くにある「金馬輪咖啡餅店(カンマァロンガーフェーベンディム)」も古くからあるベーカリー・カフェとして親しまれてきた店である。創業は1976年というから、すでに40年近くもの歴史を誇る。

店構えはどこか日本の駄菓子屋さんを思わせる造りだが、入口にパンが並べられたショーケースがあるところから、それと察することができそうだ。早朝7時に開店するが、店が開くと同時に、ココナッツパンをはじめとするローカルパンを買い求める客であふれる。

この店の一番人気は、猪扒包という名のポークチョップ・バーガー。小さなフランスパンにポークチョップをはさんだポルトガル流のバーガーで、多い日には1日700個も売れるという。カリカリに焼いたフランスパンに、甘くて濃厚な味付けのポークチョップをはさんだだけのシンプルなメニューだが、マカオの人たちはみんなこれが大好き。猪扒包の食べ歩きや食べ比べで話題が盛り上がるほどの人気である。

それにしても、このような下町の飲食店が、どこも早朝から賑わうのはなぜなのだろうか? それを知るには、少し歴史を振り返ってみる必要がありそうだ。

第二次世界大戦前後まで遡ってみよう。中国大陸から戦火を避けて、大挙マカオへと難民が流れ込んできた時代のことである。当時、彼らが暮らしたのは、台所がない狭いアパートだった。土地が十分にないマカオでは、小さな間取りの自宅で炊事することもままならなかった。人々は、そこかしこにひしめく屋台を目指して、早朝から群れをなし続けたのである。

戦いが終わり平和な世の中になって経済も好転し、人々の暮らし向きが良くなったものの、慣れ親しんだ外食文化が廃れることはなかった。立派なキッチンが作られたとしても、相も変わらず多くの人が朝から外食を続けたのだ。さらにポルトガル統治時代の習慣が残ったため、パン食及びコーヒー文化が早くから親しまれていたことで、カフェ文化が根付き、茶餐廳やベーカリー・カフェが増えていったのだ。

中国本土のように、多くの人々が麺やマントウを食すのと違って、マカオではコーヒーとパンの組合せが朝食の定番として、今日まで長く親しまれてきたのである。

昔のマカオに出合う十月初五街

新馬路から1本入った路地が十月初五街。その名は、ポルトガルで1910年に起こった共和国樹立記念日の10月5日にちなんで付けられたという。しかし、名前の由来に反して通りには中国系の店が軒を連ね、昔ながらのマカオの姿を垣間見ることができる。

1930~1950年代頃には、マカオ屈指の繁華街だったというだけに、創業50 年を超える老舗が多い。

マカオで最も古い歴史を持つ中国茶専門店や、地元の人々に親しまれているベーカリーなどもあるので、古き良き時代のマカオの雰囲気を楽しみながら、おみやげを探してみたい。

マカオ最古の中国茶専門店「英記茶荘」

マカオ最古の中国茶専門店「英記茶荘」