ポルトガル人の足跡


Footprints of the Portuguese

中国寺院のナーチャ廟と、キリスト教の布教に重要な役割を果たした聖ポール天主堂跡が隣り合っているところがマカオらしい。

中国寺院のナーチャ廟と、キリスト教の布教に重要な役割を果たした聖ポール天主堂跡が隣り合っているところがマカオらしい。

マカオの世界遺産を代表する聖ポール天主堂跡

マカオに数ある世界遺産のなかで、もっともよく知られるのは、モンテの砦脇に建つ「聖ポール天主堂跡」だろう。起源は16世紀末に建てられた聖アントニオ教会の礼拝堂といわれるが、その後数度の火災に見舞われ、いまに残るのは17世紀に再建された教会の石造りのファサードのみ。偉容は健在で、さながらマカオを象徴する祭壇のようだ。

マカオ半島の中心地にあるセナド広場。アジア初の慈善施設として建てられた仁慈堂は、マカオで最初の西洋式病院も併設していた。

マカオ半島の中心地にあるセナド広場。アジア初の慈善施設として建てられた仁慈堂は、マカオで最初の西洋式病院も併設していた。

「かつてここには教会のほか、修道院、東洋初の西洋式教育機関、図書館、診療所などがありました。マカオにおけるアクロポリスのような場所ですね。教育機関では、読み書きから、神学、哲学、ラテン語などの高等教育が施され、聖職者だけでなく、マカオに住むポルトガル人の子どもたちにも門戸を開いていました。日本語教師もいたそうで、日本で布教を行う宣教師の養成機関としての役割もあったといいます」と、マカオに住む日本人カトリック信者の女性。いまに残るファサードは、多様な彫刻が施された巨大な芸術作品でもある。聖母マリアを中心に(天主堂は「聖母会」の一部)、イエズス会の4人の聖職者たち、天使や悪魔の像などが刻まれ、なかには龍や獅子、日本の菊模様など、東洋的な図柄も見られる。

前出の信者の女性は、「日本でのキリシタン弾圧を逃れ、マカオに渡った信者の中には、この建築に携わった人もいたとか。聖ポール天主堂跡のファサードは、当時のマカオと日本との関わりを物語る証拠でもあるのです。

門をくぐって裏側から見ると、火災の跡が生々しく残っていて、本堂のあった場所はガラーンとした空間。アジアで最も美しい建造物といわれた当時の隆盛を想うと、なんとも言えない気持ちになりますね。奥の天主堂芸術博物館には、地下納骨堂があり、日本人殉教者の遺骨も安置されています」と、少ししんみりとした表情で語った。

東西文化が融合した建築美。世界有数の教会密集都市を歩く

マカオで最も古い教会のひとつ、聖アントニオ教会。マカオにポルトガル人が定住し始めてから時をおかず、パタネの丘近くに建てられた。

マカオで最も古い教会のひとつ、聖アントニオ教会。マカオにポルトガル人が定住し始めてから時をおかず、パタネの丘近くに建てられた。

マカオで最初に造られた教会のひとつが、16世紀半ばに建てられた「聖アントニオ教会」。イエズス会が初期の本部を設置した場所であり、ポルトガル人コミュニティの人々が、この教会で結婚式を上げることが多かったことから、「花王堂」とも呼ばれる。現在の建物は1930年の再建だが、庭に残る石の十字架は1636年当時のものだ。

1587年、メキシコのアカプルコから来た3人のドミニコ会スペイン人修道士によって建てられた聖ドミニコ教会。ロザリオの聖母が祀られている。かつて建物の裏手にあった鐘楼は、小さな宗教芸術品の博物館として改築されている。

1587年、メキシコのアカプルコから来た3人のドミニコ会スペイン人修道士によって建てられた聖ドミニコ教会。ロザリオの聖母が祀られている。かつて建物の裏手にあった鐘楼は、小さな宗教芸術品の博物館として改築されている。

16世紀には教会建設が続き、「聖ローレンス教会」と「聖ラザロ教会」が同時期に、さらに「聖ドミニコ教会」、「聖オーガスティン教会」、「聖ポール聖母教会」が建てられた。17世紀以降も、「大堂(カテドラル)」、「ペンニャ教会」、「ギア教会」などが建てられている。(※聖ラザロ教会とペンニャ教会は、世界遺産登録エリアから外れている)。

聖オーガスティン教会は、マカオでもっとも有名なキリスト教の行事「パッソス聖体行列」を司る教会でもある。

聖オーガスティン教会は、マカオでもっとも有名なキリスト教の行事「パッソス聖体行列」を司る教会でもある。

ごく小さなエリアにこれほど教会が密集した都市は、世界的にも珍しい。どの教会も、礼拝やイベントの時以外は基本的に出入りが自由で、喧騒が渦巻く市街地にあっても、中に入れば別世界だ。

見学のマナーについて、教会のボランティアガイドをしている女性に聞くと、「日本のお寺とそう大きくは変わりませんよ。

教会は祈りの場ですから、信者の方々の邪魔にならないよう、静かに見学するのが最大のマナーです。

服装は自由ですが(本来はノースリーブや短パンなど、露出の多い服装は控えるのがマナー)、最低限、帽子やフードなど頭を覆うものは外しましょう。ノースリーブでも、ストールをさっと羽織る方は素敵ですね。旅慣れた方だと感心します」という。

写真撮影については可能な場合もあるが、フラッシュは控えよう。さらに「拝見させていただいた感謝の気持ちを捧げたいときは、設置してある献金箱に寄付を入れてもいいですね。マカオの教会建築は、東西文化融合の証でもあり、マカオを知るうえでの大事なポイント。旅行者の方に興味を持ってもらえるのは、とてもうれしいことです」と、笑顔で応えてくれた。

ポルトガルの街角に迷い込んだような聖オーガスティン広場界隈

中国で最初の西洋式劇場として300席を設けて建築されたドン・ペドロ5世劇場は、現在も公共の催事や祝賀会の会場として使用される。

中国で最初の西洋式劇場として300席を設けて建築されたドン・ペドロ5世劇場は、現在も公共の催事や祝賀会の会場として使用される。

ひと際ヨーロッパ的な雰囲気が漂うのが、セナド広場から南西に坂を登ったところにある「聖オーガスティン広場」界隈だ。美しいカルサーダス(石畳)が敷かれ、小さな噴水とベンチ、南欧風のレトロな街灯がある広場は、ポルトガルの街角そのもの。その周りには、大富豪の別荘だった建物「ロバート・ホー・トン図書館」や、東洋で最も古い男性社交クラブにより中国初の西洋式劇場として建設され、今もオーケストラやオペラの公演がある「ドン・ペドロ5世劇場」、スペインの聖オーガスティン修道会により16世紀末に建てられ、その後イエズス会の手に移って再建された「聖オーガスティン教会」、そして路地を挟んだ先には、フランシスコ・ザビエルの右腕の骨が祀られている「聖ヨセフ修道院及び聖堂」がある。

マカオにはもう何度も訪れているという旅好きの女性が、「この界隈は、世界遺産に囲まれているわりに、いつも静かで穏やかな空気が流れている大好きな場所。ベンチに座ってぼんやり街を眺めていると、ここがアジアだということを忘れそうになります。ずっとこのままでいてほしい」と、つぶやいた。