イエス像の奇跡にちなむ祭りで新春の幸せを祈る


Pray for Happiness at the Festivals

「パッソス聖体行列」の主役、十字架を背負ったキリスト像。紫色の衣装を着た聖職者に担がれ、聖オーガスティン教会と大堂(カ テドラル)の間を往復する。頭上の赤い提灯の列がなんとも新春のマカオらしい。

「パッソス聖体行列」の主役、十字架を背負ったキリスト像。紫色の衣装を着た聖職者に担がれ、聖オーガスティン教会と大堂(カテドラル)の間を往復する。頭上の赤い提灯の列がなんとも新春のマカオらしい。

マカオだけに伝わるカトリック行事

東西の文化の交差点と呼ばれるマカオ。キリスト教文化の春の代表的なイベントが、16世紀から続く、マカオ独特のカトリック行事「パッソス聖体行列」だ。イースター(復活祭)前の日曜日を除く40日間を指す「四旬節」の最初の土日の2日間に行われるのが決まりで、必然的に毎年、開催日時が変動する。

2018年は、春節の第2、3日目にあたる2月17日(土)、18日(日)に開催される。主役は、磔刑のためにゴルゴタの丘に向かうイエスを表した像だ。大きな十字架を背負い、苦悩の表情を浮かべたイエス像は、その後に起きる悲劇を思い起こさせる。そのイエス像を紫色の衣装を身にまとった聖職者が掲げ、多数の信者とともに、マカオ警察の楽団が演奏する物悲しい音楽にあわせて、旧市街中心部にある2つの世界遺産の教会、聖オーガスティン教会と大堂(カテドラル)の間を往復行進する。

「爆竹などでにぎやかな春節のお祭りから一転して、こちらはショパンの葬送行進曲や、乾いたドラムの行進のリズム、聖歌の荘厳な雰囲気。通りには赤い灯篭が飾られる中、遠くでドラの音がかすかに聞こえたりして、まさに東西の文化が交雑するマカオならではの雰囲気ですね」とマカオ在住の日本人ホテルマン。

物悲しい響きに隠された物語

敬虔な祈りを捧げる信者たち。「パッソス聖体行列」は、マカオのカトリック信者にとって最も重要なお祭 りだ

敬虔な祈りを捧げる信者たち。「パッソス聖体行列」は、マカオのカトリック信者にとって最も重要なお祭りだ 。

春先に行われるカトリックの祭りなら、もっとにぎやかな祭りであってもよさそうなもの。しかも、ここは南国マカオ。「パッソス聖体行列」は、厳かな雰囲気のただよう不思議な祭りだ。実は、そこには、こんな不思議な物語が語り継がれている。

出発点となる聖オーガスティン教会は、もともとは1591年にスペインから来たオーガスティン派の修道士たちによって創建された修道院。ある冬に、堂内のキリスト像を大堂に移したところ、誰も知らない間に像が聖オーガスティン教会に戻っていたという。この奇跡に基づくのがこの祭りだといわれている。

奇跡は、別の形の伝説もある。1712年に、反カトリックの立場をとったマカオ政府が信者を弾圧し、行列を禁止したところ、マカオは突如食糧危機に見舞われた。マカオの大衆は行事の復活を要求し、政府もこれに屈して再び行事を行ったところ、たちどころに食糧危機が解消されたという。

「おそらく、信仰と当時の社会状況などが混交して、奇跡の物語になったのかもしれません。パッソス聖体行列が、いかにマカオの人々の生活に根付いているか、よくわかりますね」とホテルマン氏。

中国文化とキリスト教文化が融け合う独特の祭り

飾り柱と2つの鐘楼が特徴的な大堂(カテドラル)。キリスト像は、伝説に従ってここで一晩を過ごす。

飾り柱と2つの鐘楼が特徴的な大堂(カテドラル)。キリスト像は、伝説に従ってここで一晩を過ごす。

行事は、土曜日の朝、聖オーガスティン教会でミサが行われたあと、中国語とポルトガル語で祈りが捧げられ、聖体行列は夜の闇が訪れた午後7時に教会を出発。セナド広場の裏にあたる大堂に向かう。夜の行進は、信者たちが手に手に赤い蝋燭を持ち、幻想的な雰囲気だ。大堂では、マカオ教区の司教が出迎え、イエス像は堂内に安置されると、一晩中祈りが捧げられる。行列には毎年数千人の信者が加わり、それを見ようと世界中の観光客が集まる。

2日目の日曜日は、大堂内での行事。キリストが十字架を背負ってゴルゴタの丘に向かったときに、汗を拭くよう自らのヴェールを差し出した聖ベロニカの故事にちなみ、ベロニカ役に選ばれた白衣を着た少女が壇上に登り、キリストの顔が浮かび上がったヴェールを広げ、神の起こした奇跡を再現する。大堂を出発した行列は、マカオ司教を先頭に、市庁舎の大通りを通って、約2時間かけて教会まで行進する。

現在のマカオのキリスト教信者は中国人が6割を超える。行列も、中国人の信者と、マカエンセ(ポルトガル人の末裔)たちが一緒に行進。行進の見学は、マカオの文化と歴史に触れることができる。

黄色の壁が美しい聖オーガスティン教会の現在の建物は、1874年に再建されたもの。修復の際に資金がなくなり、ワラを使って屋根を葺いたことがあり、ワラが龍の髭に見えたことから、地元の中国人から「龍の髭寺院」と呼ばれたこともあったという。

華麗なバロック建築だが、落ち着いた重厚な雰囲気が漂う聖オーガスティン教会。そして荘厳な大堂。世界にカトリックの祭りは数多いが、「パッソス聖体行列」はマカオだけの祭り。静かな祭りは、マカオの早い春を告げている。