タイパの壁面はアーティストたちのキャンバス


Taipa, a Canvas for Artists

白い壁にさりげなく掛けられた自転車のオブジェ。青い戸とのコントラストは、まさにアートだ。実は、「仙女巷単車」という貸自転車屋さんの看板だ。

白い壁にさりげなく掛けられた自転車のオブジェ。青い戸とのコントラストは、まさにアートだ。実は、「仙女巷単車」という貸自転車屋さんの看板だ。

古い小路の角々で見つけるアート

カレーおでんをテーマにしたユーモアたっぷりの壁画アート。

カレーおでんをテーマにしたユーモアたっぷりの壁画アート。

ポルトガル統治時代の面影が色濃く残るタイパビレッジ。官也街を友人と歩いていた日本人女性は、「マカオには何度も来ていますが、私はタイパビレッジが一番好き。小さな家が連なっているところも可愛いし、ヨーロッパの田舎町で横道に迷い込んだみたいな雰囲気がいい。最近は、壁に描かれているペンキの絵を見て歩くのが楽しみです」と語る。

タイパビレッジは、マカオの中でも古い”町並み保存地域“のひとつ。古い石畳の通りの両側にびっしりと民家が軒を並べ、ポルトガル風の建物も多い。もともとは漁師たちが住んでいた海辺の町というか村だったが、埋め立てがどんどん進み、今は海の香りは薄まっている。だが、最近は新しい面白さがある。それがペンキで描かれたアートだ。

ロボットの絵が描かれているのはバイクショップの壁だ。

ロボットの絵が描かれているのはバイクショップの壁だ。

例えば、スターバックスの横の建物には、骸骨がカレーおでんを食べようとしている構図が描かれている。キャップをかぶった骸骨が目を輝かせて(?)カレーおでんの串を見つめ、今まさにがぶりっと口に入れようと臨場感たっぷり。おでんの串の上に書かれているのは、カレーおでんで有名な店の名前だ。

また、バイク部品と修理の店の横壁には、笑顔のロボットがスパナを持って「なんでも、直すよ~」と呼びかけているような絵がポップに描かれている。その前で、中国人の男性が連れのガールフレンドを撮影している姿もほほえましい。

こうしたペンキで描かれた独創的なアートが、町のあちこちで発見できるのがタイパビレッジの面白さなのだ。

なぜ、タイパにアート?

倉庫の壁をキャンバスに、ペンキで作品を描く女性。この倉庫は実は電力会社の設備だ。

倉庫の壁をキャンバスに、ペンキで作品を描く女性。この倉庫は実は電力会社の設備だ。

古い民家の屋根越しに、ギャラクシー・マカオの黄金に輝く擬宝珠がのぞく不思議な景観の町、タイパビレッジ。このエリアをアートの町にしようという試みは、地元の人にも観光客にもタイパの新しい魅力として、根付き始めている。この試みは、「タイパビレッジ・ディスティネーション・リミテッド」社などが、マカオ政府、地元のビルオーナーらと共同で手掛けている。

目的は、タイパの町の美しい建物の保全。ペパーミントグリーンで塗られた外観が美しい「タイパ・ハウス」や、「カルモ教会」といった歴史的建造物が並ぶ屈指の観光スポットのイメージを保ちながら、近未来をイメージさせる新たな魅力を発信する狙いが地元に受け入れられ、それが家々のアートにつながっているようだ。

同社の担当者は、「タイパビレッジには、伝統的なショップや風変りな石畳、ポルトガル建築と中国建築などが混在しています。ポルトガル風建築が連なるあたりは、地中海風の雰囲気もあります。こうした興味深い建物群が醸し出す雰囲気と賑やかなショップ、美味が集まるダイニングシーンなどと持続可能な遺産の要素が組み合わさることで、より魅力を発信できます。写真撮影や映画セットにも最適なスポットです。文化的に豊かな地域であり、写真を撮る素晴らしい場所です」と語る。その狙いのひとつがアートで、中心となる施設が「タイパビレッジ・アートスペース」だ。

コロアンで見つけた子供の壁画。青い空を見上げ、空だって飛べる、と言わんばかりだ。

コロアンで見つけた子供の壁画。青い空を見上げ、空だって飛べる、と言わんばかりだ。

いつも刺激的な「タイパビレッジ・アートスペース」

ペパーミントに塗られた住居の前に止まるグリーン色のトラック。何気ない光景もタイパではアートになる。

ペパーミントに塗られた住居の前に止まるグリーン色のトラック。何気ない光景もタイパではアートになる。

「タイパビレッジ・アートスペース」は、地元のアーティストや国際的なアーティストのアートを楽しむことができる。地元の関係者、「タイパビレッジの中心にある伝統的なショップハウスに位置していて、市街地の喧騒から離れ、この名所の歴史的、文化的魅力を満喫できる場所。観光客のための文化的巡礼の役割を果たしています。マカオの文化創造産業を促進し、才能と露出を高める目的で、村の多彩な歴史とユニークな遺産という舞台で、地元のアーティストや国際的なアーティストが作品を展示することを可能にします」と語る。

「タイパビレッジ・アートスペース」は、2017年以来、文化局が発表したマカオ文化・創造地図(マップ)のの文化的創造物の一つとして認められている。地元のアーティスト、海外のアーティストによる展覧会を随時開催するなど、活発な動きを見せている。

例えば、昨年12月6日〜2018年2月21日は、ポルトガルの国際的イラストレーター、アナ・アラゴンによる初の個展「イマジナリー・ビーイング」を開催した。また、今年6月10日から29日までは、「アートカレイドスコープ」と題した展覧会を開催。これは、マカオ芸術協会(AAMA)などが主催して、広く一般の芸術愛好家らが参加して行われた3つのワークショップで制作された絵画、版画、カリグラフィーなどを展示するもの。芸術を芸術家の手から市井の生活の中に開放しようというタイパビレッジらしい意図が込められている。

南国マカオらしい原色で塗られた格子窓。同じデザインでも青、白、黄と色が違うと、それぞれ表情が変わってくる。

南国マカオらしい原色で塗られた格子窓。同じデザインでも青、白、黄と色が違うと、それぞれ表情が変わってくる。

工事現場⁉ いえいえ、芸術です

タイパビレッジにあるポルトガル料理の名店アントニオの近く、木鐸街を歩いていると出くわすのが、白い壁一面を使って掘られた女性の横顔の彫刻画だ。

一見すると、壁を壊している最中の工事現場のように見える。通り過ぎそうになって、「あれ、何か変だな?」と足を止めてよく見ると、女性の横顔がくっきり。少女と思われる女性は目を大きく開き、口もとにはかすかな笑みをうかべて、隣のドアを見つめているようにみえる。買い物袋を下げた地元のおじさんや、子供連れの若いお母さんが行きかう姿と壁の少女の横顔。日常に忽然と現れた少女の瞳は何を見つめているのだろうか、と思わず見入ってしまう。この印象的な作品は、ポルトガル出身で、世界的に活躍する気鋭のアーティスト、Vhilsことアレクサンドル・ファルトの手によるもの。昨年6月から11月にかけて、アートスペースで行われたマカオでの個展「debris(破片)」のために制作され、今や、タイパのストリートアートを象徴する新名所となっている。

ファルトの作品が特徴的なのは、制作現場に、街を象徴する壁を選び、作品を投影した上で、ハンマーや空気ドリルやノミなどを持ち込み、まるで工事現場のようなスタイルで仕上げていくこと。ファルト自身は、ときに自分の制作現場を「現代の遺跡発掘現場」とも呼ぶという。「私がやっているのは、生命のない壁に、人生に対する考えを彫ること。無機質で灰色の都市景観において、我々の実際の本質が何か、我々はどこから来たかを示すこと」とファルトは語る。

実際に壁のそばに立ち、ノミやドリルで削り取られたデコボコの壁面を触ってみると、アジアとポルトガル、中国と西欧の文化が混とんとして交わり、新たな文化を今も生み出しているマカオの活気と活力が感じられる。

壁画でもなく彫刻でもない新しいアート。古い壁や民家の魅力が生きるタイパビレッジだからこそ、よりその作品の魅力は輝きを増す。

ポルトガル出身の異色のアーティスト、アレクサンドル・ファルトが、ドリルとノミで削って作り上げた少女の横顔の壁画。タイパの新名物になっている。

ポルトガル出身の異色のアーティスト、アレクサンドル・ファルトが、ドリルとノミで削って作り上げた少女の横顔の壁画。タイパの新名物になっている。

暮らしぶりそのものがアートなコロアン

タイパからずっと南に下がった海辺の町コロアン。昔ながらの漁民たちの暮らしが残るエリアは、素朴なアートが根付いている。

コロアンビレッジの海沿いに続く石畳の道には、太陽、魚、カニなどのアズレージョ。トタン張りの素朴な家であっても、塗装は緑、黄色、赤といった原色を基調としたポップ調。南国ならではの空の青と鮮やかなコントラストを描き、アートそのものだ。

コロアンの干物店に吊るされていた魚の干物。こうして横から見てみると、小から大へと並び、まるで日本の鯉のぼりのよう?

コロアンの干物店に吊るされていた魚の干物。こうして横から見てみると、小から大へと並び、まるで日本の鯉のぼりのよう?

海に開けた2階建ての民家の外壁には、大きな子供を描いたイラストも。壁の前に置かれたベンチに座ってこの絵を眺めているのも楽しい。

地元の干物店を覗けば、店先にぶら下げられた干物は小さいものから大きいものへと整然と並べられている。アップで写真を撮ってみると、その並び方もひとつのアートだな、と感じられる。首を横にしてみてみると、まるで日本のこいのぼり⁉

「ここがアートだって?私らはべつに普通に暮らしているだけだよ。壁のペンキは、汚れたところを隠すには、派手な色の方がいいと思っただけ。でも、いいだろ」と地元のおじいさんが笑った。

コロアンの生活にはアートがあふれている。緑、黄色と言った原色に塗られた外観の建物は、南国の空の青とくっきりとしたコントラストを描き、観る人を夢気分にさせる。

コロアンの生活にはアートがあふれている。緑、黄色と言った原色に塗られた外観の建物は、南国の空の青とくっきりとしたコントラストを描き、観る人を夢気分にさせる。

column1

豪華なホテルを彩るアートの数々

古いタイパの町並みと見事な対比を見せるコタイのIR群。豪華なホテルも美術品の宝庫だ。

例えば、今年2月にオープンしたばかりの「MGMコタイ」。300点を超える芸術作品がロビーやフロントといったパブリックスペースに展示され、宿泊客だけでなく訪れる人を楽しませている。

まず訪れる人を驚かせるのはエントランスにある高さ11メートルの巨大なライオン像。言わずと知れたMGMのシンボルだが、「MGMコタイ」のライオン像は、なんと系列ホテル初となる24金メッキ仕上げ。ホテルの中国名である「金獅美高梅」も、美しいライオンのいるMGMを示している。ロビー・フロントの背後に飾られた巨大な抽象画は、現代中国を代表する画家、蕭勤によるもの。

メインロビーとショップエリアをつなぐアトリウム空間「ザ・スペクタクル」には、黄金に輝く高さ2.5メートルの石碑風のオブジェが林立する豪華さだ。これらは、中国を代表する現代アーティスト、王開方によるもので、24金の金箔で覆われ、それぞれが、吉祥を表すテーマで制作されている。

このほか、清朝時代の豪華な絨毯やアンディ・ウォーホールの作品などが、さりげなく展示されており、美術館とみまがうばかり。ホテルでは、宿泊客向けに11時半、14時、16時、18時の毎日4回、アートガイドツアーを行っている(要予約)。

また、一昨年6月オープンの「ウィン・パレス」も、豪華なアートコレクションで有名なホテルだ。

同ホテルの「芸術は共有するためにある」という理念のもと、普通なら著名な美術館に大切に収蔵されてもおかしくない名品が、ロビーなどに飾られている。

そのひとつが、ショップアーケードの中心に置かれた4基の清朝時代の壺。18世紀の作品で、世界に2セットしかなく、もう1セットはエリザベス女王所有でバッキンガム宮殿にあるという。花がテーマのホテルだけに、花にまつわる美術品も多く、エントランスには米国人アーティスト、ジェフ・クーンズによる、ステンレス製のチューリップのオブジェも置かれている。

宿泊、食事、エンターテインメント、買い物とホテルでの過ごし方は様々だが、マカオのIRでは「芸術鑑賞」という楽しみが加わっている。巨大なホテルの随所にさりげなく飾られているアート。“アート巡り”はマカオのホテルの新たな楽しみ方だ。

こちらも「MGMコタイ」のロビーにあるライオン像。香港の作家、クロエ・ホー作で、中国の墨絵を現代風にアレンジした多彩色だ。いずれも、2014年の「ライオン・ビエンナーレ」に出品された作品。

こちらも「MGMコタイ」のロビーにあるライオン像。香港の作家、クロエ・ホー作で、中国の墨絵を現代風にアレンジした多彩色だ。いずれも、2014年の「ライオン・ビエンナーレ」に出品された作品。

「MGMコタイ」のロビーを飾る、レースの衣装を纏う黄金のライオン(洪慧作)。

「MGMコタイ」のロビーを飾る、レースの衣装を纏う黄金のライオン(洪慧作)。

「ウィン・パレス」の、黄金に輝く清朝時代の壺。

「ウィン・パレス」の、黄金に輝く清朝時代の壺。

フロントでは、現代中国を代表する画家、蕭勤の巨大な抽象画が宿泊客を出迎える。

フロントでは、現代中国を代表する画家、蕭勤の巨大な抽象画が宿泊客を出迎える。